情報処理学会
「高度交通システム研究会」(ITS研究会) 発足のお知らせ


●目的

自動車が発明されてから100年あまりが経過し、 自動車は日常生活になくてはならないものになっています。 しかし、渋滞による時間の損失や環境汚染、 事故などといった問題は根本的な解決方法を見い出せないまま現在に至っています。
また、交通・輸送に課せられた最大の使命である、人や物のモビリティ向上のためには、自動車のみならず、 鉄道、航空、バス等の公共交通から自転車、歩行を含むあらゆる輸送手段の役割分担と円滑な相互連携 (インターモーダリティ)が必須であり、従来から交通工学、都市計画などの分野で研究されてきました。 しかし、その実現手段については十分な検討は行われてきませんでした。
今後は、計算機の小型化、高速化、省電力化やGPS(Global Positioning System)による ナビゲーションシステムなどの普及に見られるように、情報分野の技術発展により、 よりインテリジェントな交通環境の実現を目指して研究が進められていくものと思われます。 ITS(Intelligent Transport Systems)は、情報技術の面から、 現在の自動車交通をはじめとする交通システムにおけるさまざまな問題点に関して、 統合的なアプローチでその解決を目指すものです。 本技術分野は、世界的な自動車の普及を背景に、物流における自動車交通の重要性の上昇、 ナビゲーションシステム、VICSなどによる自動車の高知能化、そしてコンピューティング環境の進歩により、 1980年代後半から1990年代にかけて、重要な新規テーマとして確立されました。 また、通信、画像認識、機械工学、交通工学などのさまざまな学術会議においてセッションとして取り上げられるとともに、 各国で国家的なプロジェクトとなっており、21世紀初頭における重要な研究テーマであると考えられます。 日本においても、1994年設立のVERTISを始めとして、 AHSRA、ARIB,HIDO、UTMS、VICS、JSKなどといった組織によって、 研究開発が進められています。
このように、今後、特に重要になってくると思われる交通・輸送に関して、現状のさまざまな問題点を改善し、 情報処理技術の進歩が反映されるべきであると考えられます。このため、ITSに関する研究の受け皿となり、 その発展を担うことは、本学会の研究活動としてふさわしいものです。また、高度に情報化した社会において、 インテリジェント化の遅れている物流の分野における効率化、高知能化は社会全体のニーズを担うことは明白です。 しかし、これらの問題の解決には、単なるアプリケーションの集合体ではなく、 社会的理解と情報処理技術を活用した本質的な問題解決のアプローチが必須であり、 幅広い知識を結集しなければ到底成し遂げ得ることはできません。
このような分野の研究は、分野として確立されてからはまだ日が浅いですが、 各アプリケーション単体としては古くから行われており、それぞれにおいて活発な研究がすでに行われています。 しかし、様々な問題に対して、グローバルな視点からその解決をはかろうとする場が十分に提供されているわけではありません。 結果として、現時点では、グローバルな解決法が得られず、個別の研究の単なる集合体になってしまっています。 これでは情報処理技術が十分に活用されたとは言えません。
計算機の能力が上がり、さまざまな情報が氾濫している中で、自動車もその例外ではありません。 このような中で、氾濫する情報をグローバルな視点を持って扱い、アプリケーションが必要な情報を自由に取得、 処理できるようなシステマティックな問題解決を計ることによって、初めて情報処理技術が自動車交通に対して、 その真価を示すことができるものと信じます。
本学会での研究会の取り組みが、本当の意味でのITSにおける情報技術のあるべき姿を示し、 より快適で安全な交通環境を作る上で重要な位置を占めることはほぼ間違いありません。 また、情報通信技術を軸に、交通・輸送の各分野相互間の交流を通じて課題を共有することにより、 交通・輸送の高度化が一層加速されることが期待されます。 そのためにはITSの幅広い研究分野を情報処理技術の視点で横断的に扱うことが必要があります。
本研究会では、実用的で最先端の情報工学、自動車工学、交通工学、 デバイス技術など幅広い分野の研究者が積極的に交流をはかれる場として、技術進歩をはかるとともに、 将来の交通環境がどうあるべきか、またより安全で快適なシステムを構築するにはどうすれば良いかという問題について、 解決方法を探ることを目的とします。単なる個々の技術にとどまらず、また日本という地域にこだわることなく、 来る21世紀の高度情報通信社会において、交通分野をその情報社会の柱に据えるべく、 高度に情報化するために努力する予定です。
さらに、交通環境における情報処理を考える場合には、国や地域によって異なる文化的側面を考慮に入れる必要があります。 そのことを踏まえた上で、世界的な規模でのITSの研究に関する中核を担うような活動を意識していきます。 研究会の発足はこのような国際活動を推進し、世界における情報処理研究へも大きく貢献するものと考えられます。
本研究分野については、平成10年7月に「高度道路交通研究グループ」を発足させ、 先行して調査・研究を開始してきましたが、平成12年度からは本研究会へ移行します。

●主な研究分野

(1)交通管理(商用車両運行システム、交通需要管理、車両管理、車群管理、渋滞予防、トラフィックモデル化)
(2)運転支援(車両制御、運転補助システム、車群走行、自動運転道路システム、自律走行システム)
(3)画像処理(車線認識、障害物検知、渋滞検知、運転手状態認識)
(4)通信方式(無線通信、衛星通信、光通信、光通信、移動体通信、測距技術)
(5)ネットワーク技術(アーキテクチャ、プロトコル、ネットワーク管理/制御、セキュアな通信)
(6)情報提供(ユーザインタフェース、地図情報管理、経路探索、モバイル、グループウェア、エージェント)
(7)アプリケーション(ナビゲーションシステム、自動料金収受、動的経路案内、旅行者支援、衝突回避)
(8)インターモーダリティ(実時間接続ダイヤ調整)

●提案者(五十音順)

荒田 良平(通産省)
井手口 哲夫(愛知県立大学)
伊東 幸宏(静岡大学)
井上 友二(NTTデータ)
大河内 正明(日本IBM)
岡田 和比古(NTT)
荻野 隆彦(JR総研)
小澤 慎治(慶応大学)
片木 孝至(三菱電機)
片山 平(日本電気)
川崎 弘太(富士通)
川嶋 弘尚(慶応大学)
木村 昌司(建設省)
久米 正一(運輸省)
小泉 寿男(東京電機大学)
小松 尚久(早稲田大学)
坂内 正夫(東京大学)
鈴木 健二(KDD研究所)
関  馨(沖電気)
近久 巌雄(東芝)
遠山 智(三菱自工)
時津 直樹(デンソー)
長尾 哲(トヨタ)
中垣 光弘(AHS研究組合)
野崎 敬策(松下通信)
畑中 徹(ホンダ)
浜田 亘曼(日立)
原島 文雄(東京都立科学技術大学)
半田 正利(いすず)
廣田 幸嗣(日産)
藤瀬 雅行(通信総合研究所)
松下 温(慶応大学)
水野 忠則(静岡大学)
宮内 充(千葉工業大学) 
屋代 智之(千葉工業大学)
吉田 慎一郎(NTTソフトウェア)
吉田 利博(警察庁)
渡辺 克也(郵政省)